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草舟日誌 はじまり

山から海が見えるその場所に、矢谷左知子さんの家はある。

“草舟”だ。

初めてその家に足を踏み入れた時の感動を今も覚えている。

生き生きと話しかけてくるような、なるべく自然に、最高な匙加減で手入れされた、草花たちの聖なる小道を通り抜けると、海へ抜ける景色が広がっていた。

そこは草花たちの神聖な庭。植物たちが持っている自然のエネルギーが思う存分に発揮され、みっちりとした気が充満している。

すごい場所に来てしまった。

そう確かに思った感動は今も色あせず、行くたびごとに、さらなる感動を重ねている。

 

矢谷左知子さんは、長年草作家として、草から織り上げた布や糸、紐、縄、オブジェを作るといった作家活動を続けていた。最近はこの家で草講座やリトリートを開き、様々な人々とともに、草と触れ合い、草の命を頂いて、籠や縄を作ると行った活動をされている。

そして、この場所には不思議な人々が、何かに呼ばれるように集まってくる。

植物の声が分かる人々、動物の声の通訳者。鹿と心を交わす山師、そして自然に音を奉納する音楽家、木に宿る形を彫り出す木工家、針灸師、デザイナー。。。

ここはそんな人々の交差点だ。

この交差点で、私たちは、人と植物と動物がフラットに存在しているという、今忘れかけられた、しかし真理であるこの視点を芯から味わうこととなる。

この類稀な場所が教えてくれることをこのブログに、矢谷左知子さんの快諾の元、記録する。
この記録は、この星、全てのものにとっての財産である。